努力して中小企業診断士資格を取得できたとしても、その後に資格取得者を待ち構えるのは、将来に関する次のような不安でしょう。
- この資格で生活するのに十分な収入を確保できるだろうか。
- 会社に勤務して、家族を養っていけるだけの給与を得られるだろうか。
- この資格で本当に食べていけるのだろうか。
- コンサルタントとして独立しても、本当は儲からないのではないか。
アメリカの大手会計事務所で経営コンサルタントとして活躍し、現在では経済評論家など多方面で活動している勝間和代氏のような、中小企業診断士資格取得者は存在します。
一方で、一般社団法人中小企業診断協会が行ったアンケートによれば、回答者全体の23%が年間400万以下の売上・年収という結果が出ているのも事実です。
果たして、中小企業診断士についての「食べていけない」や「儲からない」という噂は本当なのでしょうか。
この記事では、実態に即していないこれらの誤解を解くとともに、中小企業診断士の資格取得後に十分な収入を得ながら活躍していくためには、「何をすればよいか」をお伝えしていきます。
中小企業診断士試験に合格し、正しく自分をマネジメントできれば、食べていけないことはありませんし、他の職業よりも儲からないということはないのです。
安心して資格取得を目指しましょう。
中小企業診断士はなぜ儲からないと誤解されるのか
中小企業診断士が儲からないというのは誤解ですが、そう言われるようになった主な原因のひとつに、SNSの発達という現代だからこその理由があります。
あらゆる人間の情報発信が容易になったことで、中小企業診断士資格を取得した一部の方の偏った意見・感想が大きくフューチャーされることも増えてしまいました。
そこで、統計データが誤って認識されることで、データという事実に基づいた判断であっても、誤った結論が広まってしまうことがあるのでしょう。
まずは、この中小企業診断士の収入事情について、正しくデータを読み解いていくことにします。
年間売上400万以下の比率が表すもの
一般社団法人中小企業診断協会が、都道府県協会の所属会員である中小企業診断士を対象に実施したアンケートがあります。
冒頭でもお伝えの通り、回答者の23%が400万円以下の売上・年収という、低所得の会員が多数存在する結果となりました。
参照:「中小企業診断士活動状況アンケート調査」結果(令和3年5月)
一方で、令和2年度の給与所得者の平均給与は433万円となっています。
つまり、企業に勤務して、給料を支払われている人は、平均すると年間で433万円の所得を得ていることとなります(手取りの給与とは異なります)。
平均給与との比較を見て、みなさんが中小企業診断士の資格があまり収入に寄与しないと感じるのは、無理もないことでしょう。
しかし、中小企業診断士は、資格を活かして食べていくことが難しいのでしょうか。
実は、ここには独立開業の士業(コンサルタント)全般に共通する、ある事情が見え隠れしています。
悠々自適もしくは駆け出しのコンサルタント
中小企業診断士と同様、独立開業して中小企業経営のコンサルタントとして活躍できる、公認会計士・税理士の実態と比較してみましょう。
年収 | 構成比 (%) |
500万円未満 | 26% |
500万円以上 | 14% |
1000万円以上 | 17% |
2000万円以上 | 12% |
3000万円以上 | 8% |
4000万円以上 | 6% |
5000万円以上 | 6% |
7000万円以上 | 5% |
1億円以上 | 3% |
2億円以上 | 0.40% |
3億円以上 | 0.10% |
参照:Money Forwardクラウド「公認会計士の独立開業!現役会計士の年収や仕事内容を解説」
上の表は、開業している税理士の年収分布です(※1)。
開業税理士の年収分布では500万円未満の割合が26%を締めています。
中小企業診断士の売上・年収データと非常に近い結果です。
この結果に何が影響しているかといえば、税務署を退職後に細々と税務で食べていっている方や、開業して5年未満の方々がこの層に多いという事実です。
つまり、中小企業診断士に関わらず、第一線を退いた後、無理のない程度の自分のペースでコンサルタントをする人がいます。
それとは反対に、独立開業後間もない時期で、人脈・経験・信頼を培っている駆け出しのコンサルタントもいます。
独立開業してコンサルティングを行う業種では、これらの層が一定数存在することが、業界の構造上、一般的なのです。
よって、この数値だけをもって中小企業診断士が「儲からない」や「食べていけないと」と判断することは拙速であるといえます。
※1 公認会計士は税理士登録が可能であり、開業している公認会計士は税理士業務を中心とする割合が高いため、今回は開業税理士の年収分布を参照しています。
中小企業診断士の儲けの構造とは?
弁護士や他の士業と異なり、中小企業診断士は独占業務が無いといわれます。
しかし、他の士業が法律や各種制度の専門家であるように、「経営の診断および経営に関する助言」を業務とする中小企業診断士は、「経営戦略」の専門家なのです。
故に、マーケティングの他、人事・組織開発、財務分析、生産性向上、店舗経営、IT技術導入、公的補助金の活用など、経営における様々なさまざま知識を持っています。
経営のプロとなる中小企業診断士であれば、独立開業した経営コンサルタント、もしくは、企業の中で経営に携わる中核人材として活躍することは必然であり、高い収入が得られる可能性も自然と高まります。
高い平均年収
コンサルティング業務に携わる中小企業診断士で、一般的に憧れの年収と言われる1,000万円超えの割合を見てみると、なんと全体の3割を超えていることがわかります。
更に、全体の平均年収でも、750万円前後にまで届きます。
(3,001万円以上の高額所得者を除いて計算)
これは、先程の給与所得者の平均給与433万と比較しても、かなり高い数値であることがわかります。
売上または年収 | 回答数 | 構成比 (%) |
300万円以内 | 83 | 14.34% |
301~400万円 | 51 | 8.81% |
401~500万円 | 58 | 10.02% |
501~800万円 | 124 | 21.42% |
801~1,000万円 | 66 | 11.40% |
1,001~1,500万円 | 89 | 15.37% |
1,501~2,000万円 | 39 | 6.74% |
2,001~2,500万円 | 25 | 4.32% |
2,501~3,000万円 | 16 | 2.76% |
3,001万円以上 | 28 | 4.84% |
合計 | 579 | 100.00% |
参照:「中小企業診断士活動状況アンケート調査」結果(令和3年5月)
この数値はコンサルティング業務日数の合計が「100日以上」と回答した、独立開業コンサルタントや企業内診断士を対象に集計しています。
企業勤務の中小企業診断士
更に、これまでの指標に加えて、企業が募集する求人案件でも、中小企業診断士が優遇されていることが確認できます。
以下は、大手求人サイト「求人BOX」で、中小企業診断士資格の保有者を対象とした求人情報を検索した結果の一部です。
企業 | 募集職種 | 想定年収 |
A社 | 中小製造業向けコンサルティング業務 | 500〜1000万(月5万円の資格手当有り) |
B社 | 中小企業の経営コンサルティング業務 | 500~1,000万円 |
C社 | 経営企画(管理職候補) | 500~850万円 |
上記の他にも、流石に年収1,000万を超える高収入求人はほとんど見られませんでしたが、年収下限が500万円を超える求人は多くあり、一般的な求人案件よりも給与所得が高い傾向が見て取れました。
また、資格手当だけでも2〜3万円を毎月支給している企業が散見されます。
上記表のような、月5万円の資格手当が支給されれば、年収を押し上げる大きな要因になるでしょう。
独立開業の中小企業診断士としての儲け方
独立開業した中小企業診断士は、大きく分けて2つの稼ぎ方があります。
それは、「公的業務」と「民間業務」です。
中小企業診断士として「儲からない」「食べていけない」とならないためにも、それぞれの業務について特徴をしっかりと理解しましょう。
中小企業診断士「公的業務」での儲け方
中小企業診断士として、定期的に取り組みたいのが公的業務です。
国や地方公共団体、中小企業支援を行う各都道府県の機構や財団、商工会議所や商工会などからの依頼で、窓口相談業務や専門家派遣、セミナー講師業務の委託を受けます。
委託された業務内容にもよりますが、一日の報酬は3万円から、8万円を超えるものまであり、週2〜3日の業務委託を受ければ、安定した収入へと繋がります。
中小企業診断士「民間業務」での儲け方
公的業務の一方で、中小企業とコンサルティング契約を結び、経営に関するアドバイスや金融機関などからの融資支援、その他企業価値を向上するためのマーケティング活動や、事業計画の策定支援など、中小企業からのあらゆる相談に乗るのが民間業務です。
また、相談業務の他に、企業研修講師として専門分野に関わる研修や、ビジネススキルやマネジメント研修を開催して収入を得ることもできます。
中小企業だけでなく、私立大学や資格の専門学校での講師として活躍することもできるでしょう。
企業経営を左右するコンサルティング業務となりますので、1日の相談報酬として15万円を超えることも珍しくありません。
現在は、特に中小企業が受けられる補助金の申請支援業務で、活況を呈しています。
中小企業診断士としてのキャリアを考える
経営コンサルタントの唯一の国家資格である中小企業診断士となれば、独立開業でも企業内診断士としても活躍できるキャリアパスは多様にあります。
その中でも、企業の様々な課題を解決していくコンサルティング業務の経験を如何に積んでいくかが、将来の収入を高めるために非常に重要となります。
一時的には遠回りと思える方法もありますが、中小企業診断士としてのキャリアパスについて、いくつか例を見ていきます。
コンサルティングファーム
個人ではなくチームとして、企業の抱える課題を戦略的に解決まで導くのがコンサルティングファームです。俗にいうコンサル会社ですね。
マッキンゼーやボストンコンサルティンググループなどの外資系企業や、日系ではアビームや野村総研などの大手コンサルティングファームが有名ですが、大小様々なコンサルティングファームがあり、業界売上高は8,000億円を超える一大産業です。
中小企業専門のコンサルティングファームでも、独立までの実務経験を積むというだけでなく、十分な収入を得ながら中小企業診断士資格を活かしたコンサル業務で活躍することが可能です。
地域支援活動
独立したコンサルタントでも、企業内診断士としてでも、スキル・経験を役立てられ、且つ実務経験を積みながら、多くの人々に喜ばれるのが地域支援活動への参加です。
地域活性化を目的として、各自治体は各種セミナーなどを催し、人材育成や地域に特化した業界団体の振興に取り組んでいます。
そのため、小規模事業者とそれを支援する人々との橋渡しなども積極的に行っており、地域の方たちと協力して、地元企業の経営支援活動に参加することも難しくない状況となっています。
短期的には儲からない取り組みであるように見えますが、企業内診断士のような会社員ではできない稀有な経験を積むことができ、ゆくゆくは独立開業を考えているのであれば、決して無駄になることはありません。
Wライセンス
例えば、中小企業診断士と社会保険労務士の両資格を持っていれば、経営の舵取りだけでなく、給与計算や就業規則作成などの人事労務管理業務を含めた、総合的な経営コンサルティングが可能となります。
経営者はそれぞれの業務ごとに、別の専門家と委託契約を締結する必要がなくなると共に、委託される側も報酬額アップが見込まれるため、経営者とコンサルタントでWin-Winの関係が築けます。
Wライセンスとして、中小企業診断士にプラスワンする資格には、「社会保険労務士」の他、「行政書士」や「公認会計士」などがあり、組み合わせ方によって活躍する方法は多岐に渡ります。
中小企業診断士試験おすすめの通信講座
中小企業診断士のおすすめ通信講座を紹介します。低価格帯でコストパフォーマンスに優れたものがおすすめで、高価格帯の講座は含まれていません。
診断士ゼミナール
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スタディング(旧 通勤講座)
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・科目ごとの関係が明白な学習マップ
・AIによる実力スコア判定で成長を実感できる
まとめ
- 中小企業診断士は決して儲からない資格ではありません
- 中小企業診断士としての設けの構造を理解しましょう
- 独立開業後は「公的業務」と「民間業務」にバランス良く取り組む
- コンサルティング能力を伸ばすキャリアパスが儲けの鍵
中小企業診断士が儲からないのではなく、資格取得者の一定層の影響により、統計データの数値に偏りが発生するというのが真実です。
ただし、せっかく一生食べていける中小企業診断士という資格を取得しても、キャリアパスをしっかりと考えていなければ、事前の想定年収に届かないことは往々にしてあります。
一方で、資格取得後に活躍するフィールドを見据え、計画的に知識・スキル・経験を積むことで、「儲からない」「食べていけない」の問題を解消することは、難しくないでしょう。
更に、コンサルティングの能力をいかに磨いていくかが、中小企業診断士として高い収入を目指すための大きな鍵となります。
現実に起こった具体的事例を分析・検討するケーススタディについては、資格取得を目指す学習段階から、意識的に取り組むよう注意しましょう。
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