需要の変化に合わせて在庫調整をしたはずなのに、在庫が過剰になってしまったり、欠品を起こしてしまったりした経験はないでしょうか?
それは、ブルウィップ効果が原因となっているかもしれません。ブルウィップ効果について知っておくことは、適切な在庫管理の実現に役立ちます。
この記事では、ブルウィップ効果の概要や具体例、ブルウィップ効果の原因を解説します。また、解決法についても解説しますので、ぜひ現場で活用してください。
ブルウィップ効果とは?
ブルウィップ効果とは、販売現場で起きた需要の変化が、現場から離れて事業者の元に向かうにつれて大きくなる効果のことをさします。
ムチは、手元での振りはわずかだったとしても、先端では大きな動きになります。現場での小さな変化が、現場から離れた事業者の元では大きな変化になっていることをムチの動きになぞらえて、ブル(牛)ウィップ(ムチ)と名づけられました。
ブルウィップ効果の例
ブルウィップ効果の影響がでた最近の例としては、コロナ禍で生じたマスク騒動があげられます。
マスクの需要が急拡大した結果、店頭では品切れが続出しましたが、その後一転して需要量に対して供給過剰となり、在庫過多などの問題が発生しました。
ブルウィップ効果にはマスク騒動のように大きく在庫過剰になるケースと、反対に在庫欠品になるケースがあります。
ここでは、お菓子屋さんをモデルに、ブルウィップ効果が発生する過程を確認します。
ブルウィップ効果:在庫過剰の例
あるお菓子屋A店で、販売セールに備えて、セール中のケーキの予想販売個数を100個とします。セール期間中にケーキが売り切れてしまうのは機会損失となるので、余裕をもって卸売り業者Bに120個を発注しました。
卸売り業者Bは、A店以外にもケーキを卸しますので、更に余裕を持たせて製造工場に発注を依頼します。工場は、業者B以外にも取引をしていますので、卸売り業者の見込みより更に余裕を持たせて製造します。
こうして、実際に工場で作られるケーキは、現場での需要個数よりもはるかに多いものとなります。
ブルウィップ効果:欠品の例
ケーキの余剰在庫をかかえたお菓子屋さんでは、在庫をさばくためにケーキの発注を止めます。
卸売り業者も、工場への発注を抑えた結果、工場はケーキの生産量を減らし、他の製品製造に余力をまわします。
その後、お菓子屋さんがケーキの発注を通常通りに戻そうとしても、一度変更した工場の生産体制はすぐに戻せません。
つまり、ケーキの仕入れに時間がかかり、工場の生産体制が追いつくまで、ケーキは欠品となってしまいます。
ブルウィップ効果が起きる原因とは?
ブルウィップ効果が起きてしまう原因は、以下3つの観点から説明できます。
現場から離れるほど需要の変化への反応が過剰
一つ目の原因は、現場から離れるほど需要の変化に対する反応が過剰になってしまう点です。
ケーキの例で説明したように、需要予測に対して各工程で余裕を持つ傾向にあります。これは、現場から離れるにつれてその余裕分が積み重なっていくことを示しており、その結果現場から離れれば離れるほど余剰な在庫を抱えることになってしまいます。
このように、現場から離れるにつれて需要の変化に対する反応が過剰になってしまうことが、ブルウィップ効果の原因の一つです。
需要予測の精度が充分ではない
二つ目の原因は、需要予測の精度が充分でない点です。そもそも、需要予測を正確に行うことは簡単ではありません。
予測が外れてしまった場合に速やかに対応しようとしても、生産が追いつかないことや売り上げがついてこないことから、ブルウィップ効果が生じてしまいます。
需要の情報が伝わるまでにタイムラグがある
三つ目の原因は、正確な需要の情報がつかめても、情報の共有には時間がかかる点です。現場でつかんだ情報が工場に伝わるまでに時間がかかるため、工場では、ある程度見込みで生産をする必要があります。
工場での推測と実際の需要量がずれてしまうことが、ブルウィップ効果となってしまいます。また、時間がたてば現場の状況も変わってしまうため、受領した情報に基づいて生産しても、生産量が需要量とずれてしまうことも原因の一つです。
ブルウィップ効果がビジネスにもたらす影響とは?
ブルウィップ効果がおきると、ビジネスに悪影響が生じます。次のような3つの問題が発生するからです。
- 在庫過剰
- 欠品
- 生産ラインの非効率化
それぞれを詳しく解説します。
ブルウィップ効果の影響:在庫過剰
多く在庫を抱える分だけ管理費用がかかります。
また、在庫を抱えることは、品質劣化や廃棄、すなわち損失の原因になります。資金繰りにおいても、キャッシュフローが在庫の分減少するために悪影響があります。
ブルウィップ効果の影響:欠品
欠品すると、当然ながら販売機会のロスとなり、売り上げが下がります。
また、来店客からみると、購入したい品物が無い訳で、このことは顧客満足度の低下につながります。さらには品揃えが悪いというイメージを与えてしまうので、店の評判という観点からもリスクがあるでしょう。
ブルウィップ効果の影響:生産ラインの非効率化
ブルウィップ効果によって生産ラインが一定しないため、ムダな業務が発生します。
ブルウィップ効果は、需要変化への過度の反応です。つまり、生産ラインは繁忙期と暇な時を揺れ動くようになります。
繁忙期には残業代が多く発生してしまいます。一方暇な時期には人手があまり、無駄な時間が増えることになります。
ブルウィップ効果への対策とは?
ポイントは、現場と事業者や生産ラインとで情報の共有をすることです。
これまでみてきたように、ブルウィップ効果の発生する原因は、現場と生産ラインが離れているために現場の情報が生産ラインに直接届いていないことやタイムラグがあることです。生産ラインへ現場の情報を正確かつ迅速に届ける仕組みがあれば、ブルウィップ効果の発生を抑制できます。
ブルウィップ効果の対策としては以下の3項目が挙げられます。
- サプライチェーンマネジメント
- ジャストインタイム方式
- 企業統合
サプライチェーンマネジメント
生産から販売までの関連機関全体で、情報を共有する経営手法のことです。
需要の変化をいち早くつかめるので、生産量の調整を短いサイクルで行うことができます。その分供給量と生産量とのブレが少なくなるので、ブルウィップ効果の発生を抑制できます。
ジャスト・イン・タイム方式
「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」つくるやり方で、トヨタ生産方式とも言われます。
在庫を持つ必要がないので、過剰在庫の問題が発生しませんし、必要なときにスピーディーに品物を調達する仕組みを備えて欠品のリスクを減らします。
ただ、この方式はトヨタだからできたこと、とも言われるほど実現が難しく、導入企業は多くありません。
企業統合
供給元が、ブルウィップ効果を防ぐために、より現場に近い企業を買収するかたちで行われます。
例えばメーカーが小売店を買収・合併すれば、現場でどのくらい需要があるのかの詳細が手に入ります。当然ながら、より現場の需要量がわかれば、正確な生産計画を立てることが可能となります。
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ブルウィップ効果についてのまとめ
普段聞きなれないブルウィップ効果ですが、実は我々に身近におきている現象です。
予想外の過剰在庫や欠品を生むブルウィップ効果ですが、これまでみてきたように、抑制や防止のために大切なことは現場と生産ラインの情報共有です。
需要量の変化を現場から供給元までが、迅速に情報共有できている企業は、ブルウィップ効果に悩まされることは多くありません。
そのような企業の多くが、サプライチェーンマネジメント、ジャストインタイム方式、企業統合を使ってブルウィップ効果を生じないよう対策しています。
適切な在庫管理のため、ブルウィップ効果が生じていないか点検することや、上述したブルウィップ効果対策を検討してみてはいかがでしょうか。
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